鈴は10代の頃、沖縄、山原の村々をひとりで旅していた時にある老婆に出会う。
かなり破天荒な人らしく、皆「ヤチ婆」と呼んでいた。彼女はやんちゃな悪ガキたちを引き連れている。鈴とヤチ婆は当然のように仲良くなった。
出会って3日目、鈴は浜辺でヤチ婆の話を聞いていた。彼女が、かの戦争で恋人を失っていたことを初めて知った。
「愛する人の話をする時、老婆の瞳が少女のように美しく輝いていた」
そう言って鈴は歌い出す。
この曲の詩は、「戦争、死、悲しみ、苦しみ、」といった直接的な言葉は一切出て来ない。青空の下、海の向こうから穏やかな風に乗って聞こえて来る言葉に耳を傾ける。それは彼女にしか聞こえないあの人の声。一緒に生きていくとこは叶わなかったけど、今もあの頃のように想っている。
「南風815」鈴は20年経って彼女の想いを曲にした。というよりも、鈴自身およそ20年の歳月を生きたからこそ出来たのだろう。
もうすでにヤチ婆は愛する人のもとへ旅立ったのだという。
南風 815
詩 曲 鈴 康寛
空が葵いから 海が見たくなった
あなたの瞳に映った凪の光忘れられんでね
明日も晴れるかね 星も月もきれいやよ
一緒に過ごした日々に 流れていたあの唄聴こえる
また一緒に歩きたいな スクバマに消えた足跡辿るように
「幸せに出来なかったね」
南風の中 あなたの声がしてる 今
あなたが居なくても こんなに生きてこれたよ
色あせた手紙に残った 百日紅の花のように
いくつもの季節が流れてもう傷つく事のない風の中で
「新しい夢さみらんかね」
8月15日 あなたの声がする 現在も
空が葵いから 海が見たくなった
あなたの瞳が写したあの光を忘れやしない
明日も晴れるかな星も月もきれいやよ
一緒に過ごした日々に
流れていたあの唄聴こえる
頬を撫でた 南風の中